「Butterflies」を踊ろう

バンプ史上最もシンプルで踊りやすいアルバムです。


EDM的な鍵盤のフレーズが印象的なリードトラック。ファジーでマッシブなサウンドではなく、アコースティカルな響きも取り入れカントリーに接近したタイプのものです。Aviciiとかが有名ですね。もともと四つ打ち主体のダンスミュージックという点で、カントリーはEDMに親和性が高いわけです。

ドロップもなく、「歌付きのサビ」があるという安心感。むしろ90年代の小室哲哉ワークスを彷彿とさせる、日本人向けにチューニングされた誰でも親しみやすく、踊れるポップスという印象です。


今作「Butterflies」は、リード曲「Butterfly」を筆頭に、彼らのルーツの一つであるカントリーをベースにした四つ打ち主体の楽曲で構成されたアルバムとなっています。

「GO」「パレード」「孤独の合唱」「ファイター」と、11曲中の半数近くが4分音符でキックを撒いています。昨今の邦楽ダンスロックとはちょっと質感が違い、bpmがそんなに高くなく、速い曲でもオープンハイハットをシンプルに8分の裏で叩いていません。

「四つ打ちダンスミュージック」なんちゅうものは世の中にたくさんあるわけでして、例えば、これもそう。

「孤独の合唱」は明らかにこの類型でしょう。実は車輪の唄も四つ打ちです。

また、全曲4/4拍子。全前作が変拍子や5拍子の曲を大量に含んだ作品だったことを考えると、一気にシンプルになりました。「Hello,world!」はサビでシャッフルしていて、性急さと緻密さの中にもダンサンブルな要素が織り込まれています。バンプ史上最も踊りやすいアルバムになったと言えます。

なぜそうなったか。ライブで全国を回り、「自分たちの観衆と、バックビート(2、4拍目)を共有する事は困難」だという事実と向き合った結果なのだと思います。

メンバーがステージ上で裏拍のノリを呼びかけるも、客側が表でノリ続けるというのは日常茶飯事です。「Butterflies」の特典のライブ動画でも、冒頭の「パレード」でチャマが裏拍で「オイ!オイ」とコールするも、客側は終始表乗りのまま、という光景が確認できると思います。日本のロックバンドがファンを増やし、大衆化していく流れでどうしてもぶつかるバックビートの壁です。

われわれ日本人は表や四つでリズムを取るのが好きな民族です。
DEEP PURPLEの1972年の武道館公演。「smoke on the water」では、観客が四つ打ちで手拍子を始め、リッチーがリフをいったん止めて、ミュートストロークで裏打ちを指示したのは、語り草としてあまりに有名です。(でも観客は四つで手拍子を続けた)
↓7分半くらいから


※ただ、もちろん裏で取れてる国内バンドもあります。


最近アニメの主題歌にもなったアジカンの一曲。07−08のカウントダウンライブでも、12年の武道館ライブでも、誰からともなく裏に移行しています。


もちろん、8ビートを完全に捨て去ったわけでは決してなく、西海岸のロックを意識した「大我慢大会」では、スタジオ音源に裏拍のハンドクラップを入れてバックビートへの意識付けを図っています。

また、個人的に大好きな「宝石になった日」は、8ビートと四つ打ちの間に立っているような、位置付けにある曲です。1番のサビまでが四つ打ち、間奏から2番サビ前まで8ビート、で、2番サビで四つ打ちキックにバックビートでスネアが入るタイプ(バンプでいうとfireflyと一緒)のビートです。一番サビ終わった後の間奏で、自分だったらスネアに合わせてオイオイ叫びたくなるんですが、皆さんはいかがでしょうか?

バンプのライブで裏の動きが共有されづらい理由、いくつかあるんでしょうが、やはり歌詞世界の重さが大きな理由なのではないでしょうか。ビートが四つ打ちでなくても、ノリとしては四つで動かすことを意識してるのかな?という曲は前作から増えてきています。ライブでしっかりと自分たちのファンの姿を見つめ、どういうビートが彼らに一番響くのかを突き詰めた結果の産物なのだと思います。

(文:https://twitter.com/ryo_sll
https://soundcloud.com/shigeyamaryo/sets/iridictomy